幸町IVFクリニック

院長

着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)

2021.02.11

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

今回は、着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)の話題です。

着床前胚染色体異数性検査(PGT-A)って何?という方は、当院のホームページをご覧になってください。簡単にいうと、胚から5-10個の細胞と摘出して、胚の染色体を調べ、正常な染色体構成の胚を選んで移植する新しい技術です。

正常な染色体構成の胚を選んで移植をする、夢のような技術に聞こえるかも知れませんが、話はそれほど単純ではありません。

現在の技術では胚の染色体を解析するために、5-10個の細胞を採取してこなければなりません。要するに、胚に対してダメージがあります。5-10個の細胞は、栄養外胚葉という将来胎盤になる部分から採取しますが、この部分のダメージは直接着床率に影響してきます。

また、栄養外胚葉(将来胎盤になる部分)の染色体構成と、内細胞塊(将来胎児になる部分)の染色体構成が、異なる胚が存在することが分かっており、PGT-Aの結果が必ずしも内細胞塊の染色体構成を表しているとは限らないことがあります。

このようにまだまだ問題点の多い技術であり、この技術を適応することにより本当に生産率が上がるのかどうかについて、盛んに議論が行われています。

この議論を難しくしている原因のひとつに、適応バイアスがあります。適応バイアスとは、PGT-Aを適応するかどうかを決める段階でのバイアス、つまりPGT-Aを希望する集団は、希望しない集団に比べて、胚の染色体異常を起こすような背景をもっている症例が多くなる傾向にあり、その偏りが結論を歪めることをいいます。

この適応バイアスを、傾向スコアというマッチング手法で解決を試みた論文を紹介します。

Haviland, M. J., et al. (2020). “Comparison of pregnancy outcomes following preimplantation genetic testing for aneuploidy using a matched propensity score design.” Hum Reprod.

研究デザイン 後ろ向きコホート研究

対象 2011年1月1日~2017年10月31日の間に、初めての採卵を行った8227人の女性。

PGT-Aを実施した女性1,015人とPGT-Aを実施しなかった女性から傾向スコアを用いたマッチングにより抽出した1,015人を比較した。

35歳未満、35~37歳、38歳以上の3群に分けて、解析を行った。

評価項目 胚移植の回数、臨床的妊娠率、流産率、生産率

結果 PGT-Aを実施した女性は、胚移植の回数が有意に少ないにも係わらず、臨床妊娠率、生産率が高かった。

38歳以上の群では、PGT-Aを実施した女性は、実施しなかった女性と比較して、生産率が67%高かった。

35~37歳の群でも、PGT-Aを実施した女性は、実施しなかった女性と比較して、生産率が有意に高かった。

35才未満の群では、PGT-Aを実施した女性と実施しなかった女性の生産率は有意差が無かった。

結論 35才以上の女性は、PGT-Aを実施により、生産率が上がる可能性がある。

まだまだ問題点の多い技術ではありますが、実際に技術を適応した結果、35歳以上の女性に関しては、生産率改善に貢献するようです。

35歳以上の女性は、胚の染色体異常率が高くなる傾向にあり、それが原因で着床不全や流産を引き起こしている可能性が高くなります。逆に、35歳未満の女性は、胚の染色体異常率がそれほど高くないので、それが原因で着床不全や流産を引き起こしている可能性は低いと考えられます。よって、PGT-Aは、35歳以上の女性に適応するとより効果的ということが言えます。

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