良好胚を移植しても着床しない状態を、着床障害といいます。
これまで、子宮内膜菲薄化、子宮形態異常、子宮内膜ポリープ、子宮筋腫、子宮腺筋症、卵管留水症などが、着床障害の原因として指摘されてきました。これらは、主に経腟超音波検査にてスクリーニング可能で、疑わしい症例に対しては MRI や子宮鏡検査など詳しい検査が行われます。
近年、これらに加えて、慢性子宮内膜炎、着床の窓の「ずれ」、子宮内細菌叢の異常などが、着床障害の原因として注目されています。
慢性子宮内膜炎
子宮内膜炎は、文字通り子宮内膜の炎症ですが、急性と慢性があります。
急性子宮内膜炎は、下腹部痛や発熱などの症状を伴うのに対して、慢性子宮内膜炎は、症状がありません。慢性子宮内膜炎の主な原因は病原菌と考えられていますが、その侵入経路に関しては明らかになっていません。また、慢性子宮内膜炎は、着床の障害となること、抗菌剤の投与にて着床障害が改善されることが報告されています。
診断は、主に病理組織検査(免疫染色)にて行いますが、子宮鏡検査、次世代シークエンサーを用いた細菌検出(後述の ALICE)などを用いることもあります。
着床の窓の「ずれ」
子宮内膜には、着床に適した時期(着床の窓)があることが知られています。
反復 ART 不成功例の 25-30%が不適切な時期に胚移植が行われていることが報告されており、着床の窓の時間的な「ずれ」を補正することにより改善できる可能性があります。
この着床の窓の「ずれ」は、次世代シークエンサーを用いて子宮内膜着床能に関連した248遺伝子の発現レベルを解析することにより調べることができます(後述の ERA)。
子宮内細菌叢の異常
子宮内の細菌叢は、乳酸菌が優位な状態にあると着床しやすいことが報告されています。
子宮内細菌叢は、次世代シークエンサーを用いた子宮内細菌叢検査(後述の EMMA)で調べることができます。
乳酸菌が優位でない場合は、乳酸菌を補充する治療を行います。
これらの原因に対して、当院では積極的な検査・治療を行っています。
子宮鏡(ヒステロファフィバースコープ)検査
子宮口より子宮鏡(ヒステロファフィバースコープ)を挿入し、5%ブドウ糖液または生理食塩水を子宮内に注入して視野を確保しながら、子宮内を直接観察する検査です。この検査により、内膜ポリープ、粘膜下筋腫など、子宮内の病変を診断することができます。
検査の時期は、月経終了後の内膜が薄い時期が適しています。検査当日、子宮内に出血があると観察が難しくなるため、検査が中止になることがあります。
子宮内膜組織診・病理検査(免疫染色)
内膜組織診専用の吸引カテーテルを、子宮口より挿入し、内膜を吸引採取します。内膜採取時に、生理痛のような下腹部痛が 20 秒ほどあります。検査は、月経中と月経終了直後以外の時期でしたら、いつでも実施できます(高温相の時期に実施する場合は、避妊が必要になります)。採取した内膜は、病理検査に提出します。
一般的な病理検査に加えて、CD138 抗体を用いた免疫染色を行い、形質細胞を検出します。形質細胞が検出されると、内膜が慢性的な炎症状態にある、つまり慢性子宮内膜炎の証明になります。
ERA検査
ERA(Endometorial Receptivity Analysis)
エラ / 子宮内膜着床能検査
~あなたの着床の窓を調べます~
胚移植での妊娠率が向上することが報告されています。
どんな検査?
- 子宮内膜には着床に適した期間(着床の窓)があります。
- この期間は個人によって異なり、ERA検査では、患者様個々の着床の窓を特定します。
- 最適なタイミングの胚移植をすることで、妊娠率を高めます。
このような方へ
- 良質な胚を移植したにも関わらず、着床に至らなかった方
- 自分の着床の窓(着床に適した期間)知りたい方
- 胚移植を行うタイミングを把握したい方
EMMA+ALICE検査
EMMA(Endometorial Microbiome Metagenomic Analysis)
エマ / 子宮内マイクロバイオーム検査
~子宮内膜の細菌の種類と量を調べます~
子宮内の乳酸菌割合を上げると着床・妊娠率が上昇します。
どんな検査?
- 子宮内膜の細菌の種類と量を測定し、バランスが正常かどうかを調べます。
- 子宮内膜の乳酸菌の割合は、着床・妊娠率に大きく関わります。
- 子宮環境を改善する(乳酸菌の割合を上げる)ことにより着床・妊娠率が向上します。
このような方へ
- 着床しやすいように子宮内環境を整えておきたい方
- 今後の治療プロセスで、自分の子宮内膜の状況を調べておきたい方
- 乳酸菌が優位でない場合には、適切な治療をご提案いたします
ALICE(Analysis of Infectious Chronic Endometritis)
アリス / 感染性慢性子宮内膜炎検査
~慢性子宮内膜炎を起こす細菌を調べます~
不妊症患者の30%が慢性子宮内膜炎に罹患しています。
どんな検査?
- 慢性子宮内膜炎*は、細菌感染によって起こり、不妊症・不育症の原因の1つとなります。
-
ALICE検査では、従来の方法では特定できなかった慢性子宮内膜炎の病原菌を検出いたします。
*慢性子宮内膜炎は不妊症患者の約30%習慣性流産や着床不全患者では約66%が罹患していると言われています。
このような方へ
- 体外受精をした人が、着床しない、または早期流産をご経験された方
- 慢性子宮内膜炎と診断されて、適切な治療をしたい方
- 検出された病原菌に対する治療に必要な抗生物質やプロバイオティクスをご提案いたします
子宮内フローラ検査
検査でわかること
- 善玉菌・ラクトバチルス属菌の割合
- 常在菌、細菌性腟症の原因菌の存在と割合
検査を受ける3つのメリット
- 子宮内フローラのバランスを知ることができる
- 子宮内フローラのバランスを知ることで対応策を考えられる
- どの様な細菌が子宮内に存在するのか知ることができる