幸町IVFクリニック

院長

体外受精から顕微授精へステップアップ???

2017.08.17

こんにちは 幸町IVFクリニック 院長の雀部です。

 

診察室でよく遭遇する患者さんの疑問や誤解の第2弾です。

 

まずは、診察室での会話からです。

ご夫婦「先生、体外受精から顕微授精へステップアップしたいんですが」

医 者「○○さんご夫婦は、通常の体外受精で普通に正常受精しているので、顕微授精は必要ないですよ」

ご夫婦「そうなんですが、なかなか妊娠しないので、そろそろステップアップしようかと思って・・・」

医 者「今、○○さんご夫婦に必要なのは、顕微授精ではなくて、いつもお話ししている受精卵(胚)の質を上げるための対策ですよ」

ご夫婦「?????」

 

これは、よくある誤解の典型例です。

多分、このご夫婦の頭の中には、

 

タイミング指導  人工授精  体外受精  顕微授精

 

というステップアップの順番があり、今「体外受精」のところにいるので、「顕微授精」にステップアップすれば違った展開が期待できるのではと考えているのだと思います。

 

このような誤解を招く原因として、医療提供側の用語の使い方に問題があると、以前より考えていました。我々は、「体外受精」を、広い意味と、狭い意味の二通りの使い方をしています。広い意味の「体外受精」とは、体の外で卵子と精子を受精させて、受精卵を子宮に戻す技術全般を指しますので、「顕微授精」もその中に含まれてきます。狭い意味の「体外受精」は、媒精(同じ培養液中に精子と卵子を置いて、自然の受精を期待する方法)で授精することを指し、「顕微授精」と対になる技術のような使い方をします。実は、広い意味の「体外受精」が正式な使い方で、狭い意味の「体外受精」は便宜的な使い方です。「媒精」という用語がわかりにくいため、患者さんへの説明の際に便宜的に狭い意味の「体外受精」が多用されたため、いつのまにか「体外受精」と「顕微授精」は別の技術のようなイメージが普及してしまったのです。そこから一歩踏み込んで「体外受精」から「顕微授精」へステップアップという発想になってしまったのではないかと思います。(ちなみに、私が患者さんに説明する際には、「媒精」の代わりに「通常の体外受精」という言葉で説明しています。)

 

正しい用語の使い方をすると、(広い意味の)「体外受精」には、「媒精」と「顕微授精」という二通りの授精方法があります。そして、「媒精」で正常受精するご夫婦に「顕微授精」は必要ありません。前回の「体外受精は、“半分”検査、“半分”治療」のスライドを参照してください。冒頭のご夫婦は、「媒精」で正常受精が成立しているので、「③胚が発育していない可能性」、または「④着床が傷害されている可能性」に対する対策を執らなくてはならないのに、「②受精が成立していない可能性」に対する対策を執ろうとしているのです。治療のポイントがずれている上に、時間・費用・労力の無駄です。そして、過剰医療です。

 

最後に、顕微授精が必要無い患者さんに顕微授精をやっても意味がありませんよという内容の論文を2本挙げておきます。

Grimstad, F. W., et al. (2016). “Use of ICSI in IVF cycles in womenwith tubal ligation does not improve pregnancy or live birth rates.” HumReprod 31(12): 2750-2755.

男性因子が無い(顕微授精が必要ない)、卵管結紮の既往があるカップルに対して、通常の体外受精(媒精)を行った集団と顕微授精を行った集団を比較しています。受精率は有意差無し、妊娠率と生児獲得率は顕微授精を行った集団の方が低い結果でした

 

Tannus, S., et al. (2017). “The role of intracytoplasmic sperminjection in non-male factor infertility in advanced maternal age.” HumReprod 32(1): 119-124.

男性因子が無い(顕微授精が必要ない)、女性が40歳以上のカップルに対して、通常の体外受精(媒精)を行った集団と顕微授精を行った集団を比較しています。受精率、受精失敗率、臨床妊娠率、生児獲得率すべて有意差無しでした。

 

またまた、専門的な内容になってしまい申し訳ありません。なるべくわかりやすく書きますので、これに懲りずにまた読みに来てください。

 


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