AMH=卵巣年齢って本当?
こんにちは 幸町IVFクリニック院長の雀部です。
診察室でよく遭遇する患者さんの疑問や誤解の第3弾です。今回は抗ミューラー管ホルモン(AMH)の話題です。
「AMHが低く卵巣年齢○○歳(実年齢よりかなり上の年齢)なので、すぐに体外受精をやらないと、一生子供をあきらめなければならなくなりますよ」
前の病院の先生からこのように言われたと、悲壮な顔をして話す20代後半~30代の患者さんがいます。誰でも卵巣年齢が実年齢よりもかなり年を取っていますと言われたらショックですよね。中には精神的に追い詰められた状態になって、診察室で話ながらぼろぼろ泣き出す方もいらっしゃいます。最近このパターンが非常に増えています。果たして、このAMH=卵巣年齢というのは本当なのでしょうか?
結論を先に言います。AMH=卵巣年齢ではありません。できるだけわかりやすく解説していきます。
AMH=卵巣年齢でない理由
①AMHは卵巣に残存している卵子数を表す指標ではない
②AMHは量的指標であり、卵子の質まではわからない
①AMHは卵巣に残存している卵子数を表す指標ではない
残念ながら臨床レベルで卵巣に残存している卵子数を測る方法は存在しません。AMHを測っても残存卵子数はわからないのですが、なぜかAMHが残存卵子数の指標という間違った認識が一般に広まってしまいました。これが、AMH=卵巣年齢という誤解の原因です。
それではAMHは何を測っているのでしょうか?卵胞は、原始卵胞 → 一次卵胞 → 二次卵胞 → 前胞状卵胞 → 胞状卵胞 → 卵胞 → 排卵の順番で育っていきます。AMHは、主に前胞状卵胞より分泌されるホルモンです。つまり、AMHは「卵胞として育つ準備が整った卵胞の種」がどのくらいあるかを診る指標なのです。よってAMHが低値の方は、体外受精で卵巣刺激を行った際に、年齢が若くても取れてくる卵子数が少ない傾向にあります。しかし、AMHでは「卵胞として育つ準備が整う前の卵胞の種」がどのぐらいあるかについてはわからないのです。
②AMHは量的指標であり、卵子の質まではわからない
もし仮にAMHが同じ値、かつ低値(<1.0ng/ml)の30歳と45歳の女性がいたとします。現実にはありえませんが、二人とも年齢以外の条件はすべて同じと仮定します。この二人がそれぞれ体外受精を受けた場合、二人とも取れてくる卵子数は少ないのですが、卵子の質は30歳女性の方が高い傾向にあります。当然、30歳女性の方が妊娠は成立しやすいことになります。つまりAMHはあくまでも量的指標であり、質的なものは評価できません。
次に、年齢が若いのにAMHが低値だった場合の対応についてです。
年齢が若いのにAMHが低値だった場合、2つのことが考えられます。
1)何らかの原因で残存卵子数が少ないために、前胞状卵胞も少ない場合
2)残存卵子数はまだ十分あるのに、たまたま前胞状卵胞が少なかっただけの場合
前者の場合、直ちに体外受精をやる必要がありますが、後者の場合、状況に依ります。ただし、前述の通り残存卵子数を測る手段がありませんので、年齢が若いのにAMHが低値だった方は、“半分”検査(「体外受精は、“半分”検査、“半分”治療」を参照してください)のつもりで体外受精をやることをお勧めします。
最初の医師の言葉に戻ります。
「AMHが低く卵巣年齢○○歳なので、すぐに体外受精をやらないと、一生子供をあきらめなければならなくなりますよ」
前半のAMH=卵巣年齢という説明は正確ではないので、これによって心に傷を負う必要はまったくありません。聞き流してください。しかし、後半の「すぐに体外受精をやった方がいいですよ」は耳を傾ける価値があります。
ご理解いただけたでしょうか。皆様の妊活に役立つ内容を書いていきますので、また読みに来て下さい。