幸町IVFクリニック

院長

なぜ胚移植は1個?

2017.11.09
幸町IVFクリニック 院長 雀部です。
診察室でよく遭遇する患者さんの疑問や誤解第8弾です。今回は胚移植の際に子宮に戻す胚の個数(以下胚移植数)の話です。
胚移植数が1個でも2個でもたいした問題じゃないと考えている方いらっしゃいませんか?実はこの胚移植数が、安全な妊娠・分娩をするための重要なポイントなのです。
一般に胚移植数を増やすと妊娠率が上がりますが、多胎妊娠(双胎以上の妊娠)率も高くなります。多胎妊娠は早産になる頻度が高く、早産になると児が未熟な状態で生まれてきます。現在は新生児医学が発達しておりますので、治療によって問題なく発育できる児がいる一方で、後遺症を残す児も出てきます。また、多胎妊娠は、妊娠高血圧症候群、HELLP症候群、血栓塞栓症、胎児発育異常(胎児発育不全、両児の発育差)、産後の過多出血などの産科合併症の発症率が高いことが知られています。
体外受精が急速に発展した時期(1990年代から2000年代にかけて)は、とにかく妊娠率を上げることが至上命題で、多胎妊娠率を下げるという安全性まで手が回っていませんでした。しかし、近年は技術が成熟し、その精度が高まってきたため、妊娠率と安全性の両立が求められるようになってきました。
A 日本産科婦人科学会の会告
このような背景のもとに、2008年、日本産科婦人科学会より「生殖医療における多胎妊娠防止に関する見解」という会告が出されました。

「生殖補助医療の胚移植において、移植する胚は原則として単一とする。ただし、35歳以上の女性、または2回以上続けて妊娠不成立であった女性などについては、2胚移植を許容する」
この会告を実施した成果が論文にまとまっています。
「 1胚移植は2007年52.52%から2012年82.6%まで増えた。一方多胎妊娠率は10.7%から4.1%に減少した。早産、低出生体重児、妊娠週数に比して小さい児、周産期死亡率は有意に減少した。」

日本産科婦人科学会が毎年発表している体外受精・胚移植等の臨床実施成績によると、2015年は新鮮胚移植の79.7%、凍結融解胚移植の81.76%が単一胚移植だったそうです。
本当に1個しか戻さなくて妊娠するのか?
このように日本産科婦人科学会の会告を機に、一気に1胚移植が普及しました。でも本当に1個しか戻さなくて妊娠するのでしょうか?

当院では、全例1胚移植を行っています。最近の妊娠率をまとめてみました。

当院の成績

 

2胚移植の成績に比べるとやや低くなりますが、ほぼ同等の成績を出すことができます。

C まとめ
当院では妊娠率と安全性の両立を目指して、10年前より全例1胚移植を行っており、10年間二卵性双胎ゼロを達成しています。残念ながら、いまだに二卵性双胎を量産しているクリニックが、ごく一部あります。二卵性双胎は、防ぐことができます。治療を受ける側の皆様も、正しい知識を持って安全な妊娠を目指してください。
※2胚移植=悪ではありません。緻密な計算の基に選択的に2胚移植を行い、低い多胎妊娠率を維持しているクリニックもありますので、誤解の無いように。

 



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