幸町IVFクリニック

院長

障害のある子が生まれてきませんか?

2017.11.30
幸町IVFクリニック院長雀部です。
診察室にてよく遭遇する患者さんの疑問や誤解第9弾です。「体外受精や顕微授精で、障害のある子が生まれてきませんか? 」という質問を受けることがあります。体外受精、顕微授精、胚の体外培養、凍結や融解が児に何か悪い影響を及ぼさないかと心配されての質問だと思います。
この安全性の問題、実はまだ結論が出ていないんです。「えっ!」て驚かれる方が多いと思いますので、どういうことなのかを説明していきます。
一般に、ある技術が危険であることを証明するのは比較的簡単ですが、安全であることを証明するのは長い年月と膨大な労力がかかります。体外受精など生殖医療の場合、さらにややっこしい特殊な事情がもう一つ加わります。
それは、生殖細胞を対象とした医療だということです。身体の細胞には、体細胞と生殖細胞の2種類があります。体細胞は、その個体1代限りの細胞、生殖細胞は、世代を超えて受け継がれる細胞です。体細胞を対象とした医療(ほとんどの医療がこれに該当)は、その個体に対する安全性を確認すればいいのですが、生殖細胞を対象とした医療は、次世代、次々世代まで安全性を確認しないと本当の意味の安全とはいえません。
世界初の体外受精成功例が1978年、その結果生まれた女児ルイーズ ブラウンが結婚して次の世代を出産したのが2006年です。ヒトの体外受精の歴史は、まだ浅いのです。そして、その本当の意味での安全性を確認するためには、まだ長い時間がかかります
我々が患者さん向けの説明書を作成する際に、「体外受精の安全性に関しては、児の長期予後を含め、まだ判明していない点もあるので、安全と言い切らない表現にしてください。」という日本産科婦人科学会の指導が入ります。この指導は、日本で生殖医療を実施している全施設に及んでいますので、すべての施設の説明書でこれに沿った文言が入ってるはずです。
ちなみに、当院の説明書では、「早産・低出生体重児・先天異常などの周産期異常の発生率は、自然妊娠と比較して若干増加すると報告されています。その要因は、技術自体に依るものではなく、この治療を受ける集団の特性に依るものと考えられています。しかし、現時点では明確な結論は出ていませんので、今後さらなる検証が必要です。また、児の長期予後や児の次の世代に対する影響についてはまだ不明な点が多く、医学的にこれからの検討課題となっています。」という表現になっています。
冒頭の「体外受精や顕微授精で、障害のある子が生まれてきませんか? 」という質問に対しては、当院の説明書のようななんとも歯切れの悪い答えになってしまいます。白黒でいうと、だいたい白だけど、まだ解明されていないグレーの部分がありますよという微妙な状況です。こんな説明を聞くとかえって心配になってしまう方もいらっしゃるかと思いますが、現時点では過剰に心配する必要はありません。ただし、技術の運用に際しては、「必要最小限の治療に留める」、「目先の妊娠率に惹かれて過剰医療を行わない」など、慎重な姿勢が必要です。医者任せにしないで、治療を受ける側のご夫婦も安全性について十分に認識して治療を進めることをお勧めします。

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