前回ERA検査の話をしましたので、その関連で凍結融解胚移植の話をしましょう。
これは日本産科婦人科学会が毎年発表している、日本全国の生殖補助医療のデータをまとめたものです。1992年から2015年までの年別出生児数がグラフになっています。生殖補助医療による出生児数が右肩上がりに伸びているのが分かります。ものすごい伸びですね。
データを
もう少し詳しく見てみましょう。青い部分は体外受精で受精して新鮮胚移植を行って妊娠して生まれた児の数、赤い部分は顕微授精で受精して新鮮胚移植を行って生まれた児の数、緑の部分は凍結融解胚移植を行って生まれた児の数です。青と赤はだいたい同じ位の数で推移していますが、緑が急激に伸びてます。
当院でも同じような傾向があり、最近は妊娠症例の8
~
9割が凍結融解胚移植による
妊娠です。なぜこんなに凍結融解胚移植による出生児
が増えているの
でしょうか
?
一番の理由は、
ヒト胚の凍結法として
2000年
ごろより
普及した
急速ガラス化法という新しい凍結技術にあります。
この技術が普及する
までは
緩慢凍結
法という技術で
胚を
凍結
してい
ました。
凍結保護剤で胚を処理した後に、
プログラムフリーザーという機械を使って徐々に温度を落としていき、最後液体窒素にポチャンというやり方です。ところが、この
緩慢凍結
法は、技術的な問題
のため融解した時に壊れる頻度が高く、
成績があまり芳しくありませんでした。
おまけに、時間がかかる
(
全
工程約3時間、急速ガラス化法は約15分)、
プログラムフリーザーが
液体窒素を
大量に消費する
、
場所を取る、
音が
うるさいなどあまりいいところがありませんでした。唯一の良い点としては、ほとんどの工程を機械がやってくれるので、
培養士
ごとの技術差が出にくい
ということくらいで
した
。
成績があまり芳しくないと
いう
事は、医師の立場としてはなるべく凍結保存に持ち込まずに、新鮮胚で移植
する
方向
で方針を考えます
。よって、
以前は諸事情によりどうしても新鮮胚移植できない
時に渋々凍結するという、
どちらかというと脇役の治療といった感じでした。
一方、緩慢凍結法に代わって普及した
急速ガラス化法は、高濃度の凍結保護剤で胚を処理した後、すぐに液体窒素に浸して超急速に温度を下げ、細胞をガラス化するという方法です。この方法で凍結すると、融解したときに壊れる頻度が低く、成績も良好、プログラムフリーザーも不要ということで急速に普及しました。 その結果、最初にお示ししたグラフのような状況になっています。脇役から一気に主役級の治療に成長してきたというわけです。
そして、こんな論文も出ています。
://www.fertstert.org/article/S0015-0282(15)00092-8/abstract”>Roque, M., et al. (2015). “Freeze-all policy: fresh vs. frozen-thawed embryo transfer.” Fertil Steril 103(5): 1190-1193.
新鮮胚移植を行わずに、良好胚はすべて凍結保存し、融解胚移植する方針(
Freeze-all policy)で治療した方が、新鮮胚を移植をするよりも、成績が良いという内容です。
ここまで読み進んで来られた方の中には、なんとなく腑に落ちていない方がいらっしゃると思います。
凍結の技術が変わって成績が改善したのはわかるけど、なんで新鮮胚で戻さないで、わざわざ凍結しなければいけないのか?
当然の疑問です。実は、凍結保存して融解胚移植を行うことにより、いろいろなメリットが見込めるのです。どんなメリットが見込めるかについては、次回に続きます。