幸町IVFクリニック

院長

胚移植するなら分割期?胞胚期?

2018.03.29

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

今回は、胚移植を行う時期の話です。

体外受精を経験された方はご存知だと思いますが、胚移植を行う時期として、分割期と胞胚期があります。一般に、分割期移植は2または3日目、胞胚期移植は4~6日目に行うことが多いと思います(採卵日が0日目です)。そして、胞胚期移植の方が、分割期移植より妊娠率が高いことが知られています。

なぜ、胞胚期移植の方が妊娠率が高い?

2つの理由が考えられています。

① 培養期間を延長することにより、弱い胚は脱落し、強い胚のみが胞胚に到達することができます。よって、妊娠率の分母から、弱い胚を移植する周期が除かれますので、相対的に妊娠率は高くなります。

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② 自然妊娠では、分割期胚はまだ卵管にいます。胞胚になるころに子宮に降りてきて着床します。マウスの体外受精では、正確に分割期胚は卵管に、胞胚は子宮に移植しないと妊娠しません。ところが、ヒトの体外受精では、卵管にいるべき分割期胚を子宮に移植しても妊娠します。

以前(1990年代)、培養技術(特に培養液)がまだ未成熟だった時代は、ヒト胚を胞胚期まで体外培養することが困難だったため、やむを得ず分割期胚を子宮に戻していました。それでも妊娠するのですが、本来卵管にいるべき分割期胚を子宮に戻していることが、妊娠率を下げる原因になっているのではないかと考えられてきました。

しかし、近年は主に培養液の改良により、簡単に胞胚まで体外培養することが可能になりました。それに伴い、子宮にいるべき時期の胚(つまり胞胚)を子宮に移植することができるようになりました。これによって妊娠率が向上するのではないかという考え方です。

2つの理由の内、①に関しては確実に妊娠率向上に貢献していますが、②に関しては、本当に妊娠率向上に貢献しているかどうか、まだ証明されていません。ヒトの場合、実はあまり関係ないのではという意見もあります。

臨床の現場では、3日目の時点で良好胚が複数ある場合、①の効果により妊娠率向上を見込むことができます。しかし、3日目の時点で良好胚が1個しかない場合、①の効果は期待できませんので、②の効果を見込んで培養期間を延長するかどうかは悩ましいところです。なぜなら、培養期間延長に伴う胚へのストレスのことも考慮しなくてはならないからです。どんなに技術が進んでも、完全に体内と同じ環境を体外に再現することは困難です。実は、子宮内の方が体外環境より優れているということがあり得ます。

妊娠・分娩に及ぼす影響

妊娠・分娩に及ぼす影響も考えておく必要があります。

2つ論文を紹介しておきます。

まず、胚移植の時期と分娩結果の関係を考察した論文です。

Martins, W. P., et al. (2016). “Obstetrical and perinatal outcomes following blastocyst transfer compared to cleavage transfer: a systematic review and meta-analysis.” Hum Reprod 31(11): 2561-2569.


胞胚期移植は、分割期移植と比較して、37週未満の早産、32週未満の早期早産、妊娠週数より大きい児、周産期死亡数が増加するとのことです。一方、胞胚期移植は、分割期胚移植と比較して、妊娠週数より小さい児、vanishing twin(妊娠早期の双胎1児死亡)が減少するとのことです。

生殖補助医療における一卵性双胎の発生について検討した論文です。

Hviid, K. V. R., et al. (2018). “Determinants of monozygotic twinning in ART: a systematic review and a meta-analysis.” Hum Reprod Update.

胞胚期移植では、分割期移植と比較して、一卵性双胎発症のリスクが高くなる(オッズ比: 
2.18, 95%信頼区間: 1.93-2.48 )ことが報告されています。

診察室でお会いする患者さんの中に、胞胚期移植を、着床率を高くする魔法の方法のようにイメージされている方がたまにいらっしゃいます。そのような魔法の方法は存在しません。目先の妊娠率だけでなく、培養期間延長が胚に及ぼす影響、妊娠・分娩後なども考慮して胚移植の時期を決める必要があります。

【過去の重要記事】
 
 なぜ胚移植は1個?

 なぜ胚移植は1個?続き

 私、双子希望なんです!



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