幸町IVFクリニック

院長

禁欲期間って何?

2018.06.07

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

今回は、ご主人の禁欲期間の話です。

体外受精や顕微授精の治療周期に入ると、「ご主人の禁欲期間を調節してください。」という話がでます。我々は普段当たり前のように使っている表現なのですが、患者さんの中には「ご主人の禁欲期間」と言われても何のことかわからない方がいらっしゃいます。

ご主人の禁欲期間とは、射精から次の射精までの期間を指します。WHOのガイドラインでは、この期間を2-7日に調節するのが望ましいとしています。精液検査、精子凍結、人工授精、体外受精、顕微授精などを目的とした採精は、すべてこの基準で禁欲期間を調節して行います。

一般に、禁欲期間が短すぎると精液量、精子濃度が減り、長すぎると運動性が低下するといわれています。そして、丁度いい落としどころが、禁欲期間2-7日になります。

当院では、患者さんに禁欲期間3-7日と伝えています。禁欲期間2日でも大丈夫と伝えると、射精の時間帯によっては禁欲期間48時間を下回ってしまう可能性があるためです。例えば、深夜に射精した後、1日はさんで2日後の早朝に再度射精すると、禁欲期間24-36時間になってしまいます。48時間を下回ってしまうと、症例によっては、精液量、精子濃度が低下してしまうことがあります。実際には、48時間が確保できていれば、禁欲期間2日でも大丈夫です。

この禁欲期間が、体外受精の成績に及ぼす影響を検証した論文を紹介します。
Periyasamy, A. J., et al. (2017). “Does duration of abstinence affect the live-birth rate after assisted reproductive technology? A retrospective analysis of 1,030 cycles.” Fertil Steril 108(6): 988-992.

2011-2015年の間に実施された生殖補助医療1,030周期を、後ろ向きに検討した研究(前向きの研究に比べると信頼性が落ちます)です。禁欲期間2-7日間のグループと7日以上のグループを比較してた結果、禁欲期間2-7日のグループの方が、生児獲得率、臨床妊娠率が有意に高い結果でした。受精率、流産率は、有意差ありませんでした。

禁欲期間2-7日間に調節した方が、体外受精の成績がいいようです。「皆さん、禁欲期間を調節しましょう」で、話を終わりたいところなのですが、臨床の現場ではそんなに簡単にはいきません。どういうことかと言いますと、精液検査や精子凍結の場合は、あらかじめ日程が決まっているので、禁欲期間の調節が容易です。ところが、体外受精や顕微授精の場合は、採卵の日程が2-3日前まで確定しないため、禁欲期間の調節が難しくなってきます。

そこで、だいたいの見当をつけて禁欲期間の調節することになります。当院では、卵巣刺激開始日を1日目と数えて10-14日目に採卵日が当たることが多いので、卵巣刺激7日目に1度射精しておいてもらいます。そうすると、だいたい禁欲期間が3-7日になります。もちろん、採卵日が前後にずれると上手くいきませんが、だいたいこのやり方で調節可能です。

禁欲期間の調節について、理解していただけたでしょうか?

最後に、このような話をすると、禁欲期間を過度に気にする方が必ずでてきます。禁欲期間はあくまでも目安であり、体外受精の成績はこれだけで決まるわけではありません。他にも重要なポイントがたくさんあります。1つのことにあまり神経質になり過ぎないように注意しましょう。

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