幸町IVFクリニック

院長

内膜症性囊胞の手術は慎重に

2018.08.16

幸町IVFクリニック 院長 雀部です。

前回の記事にて、卵巣に内膜症性囊胞があると卵巣予備能が低下するという話をしました。だったら、手術して卵巣内膜症性囊胞を取っちゃおうと考えている方いらっしゃいませんか?

ちょっと待って下さい。慌てて手術をする前に、今回紹介する論文を読んでみてください。

Alborzi, S., et al. (2014). “The impact of laparoscopic cystectomy on ovarian reserve in patients with unilateral and bilateral endometriomas.” Fertil Steril 101(2): 427-434.

卵巣内膜症性囊胞の腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出術が、卵巣予備能に及ぼす影響を検討した論文です。

卵巣内膜症性囊胞の腹腔鏡下卵巣嚢腫摘出術を行った193人の女性を対象とした前向き研究です。卵巣予備能の指標として抗ミューラー管ホルモン(AMH)を、術前、術後1週間、3ヶ月、9ヶ月に測定しています。

術前のAMH3.86±3.58ng/mlが、術後1週間1.66±1.92ng/ml、3ヶ月2.06±2.5ng/ml、9ヶ月1.77±1.76ng/mlと有意に低下しました。特に両側卵巣に内膜症性囊胞がある女性、38才以上の女性は、術後の低下率がより大きいという結果でした。

つまり、卵巣に内膜症性囊胞がある方は、手術をすると卵巣予備能が低下し、9ヶ月待ってもほとんど回復しないということです。

よって、内膜症性囊胞の摘出術をやるかやらないかは、慎重に考える必要があります。不妊治療を担当する立場としては、内膜症性囊胞は原則手術をやらずに経過をみることをお勧めします。

大きい内膜症性囊胞など、妊娠前に摘出した方が良いとの判断の場合は、先に採卵して胚を凍結保存してから手術、術後に融解胚移植という手もあります。

ただし、卵巣内膜症性囊胞はまれに悪性化することがあります。経過観察する場合は、定期的に腫瘍マーカーや画像診断を行い、万が一悪性化が疑われる場合は、手術を含めた対応が必要になってきます。

【注意!】
良性・悪性の最終診断は、手術で摘出した組織を病理診断してもらわないとつきません。手術をしない状態での腫瘍マーカーや画像診断による良性・悪性の診断精度には限界がありますので注意して下さい。

経過観察するにしても、手術をするにしても、それぞれのメリット、デメリットを十分に理解して治療方針を決定する必要があります。単純に悪いものは取ってしまえという話ではないことを理解していただけたでしょうか?

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