幸町IVFクリニック

院長

胚の凍結保存は何年ぐらいまで大丈夫?

2019.01.10

新年明けましておめでとうございます。

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

忙しさにかまけて、しばらくさぼってしまいましたが、心機一転また役立つ情報を届けていきますのでよろしくお願いいたします。

今回は、凍結胚の保存期間に関する話題です。

皆さん、凍結胚ってどのように保存されているかご存じですか?
患者さんの中には、業務用の冷凍庫の様なものに保存されているとイメージされている方がいらっしゃいます。理化学向けのディープフリーザーという超低温フリーザーがありますが、それでもせいぜいマイナス80℃程度までしか温度を落とせません。マイナス80℃で保管したら、あっと言う間に劣化が進んで、多分1年持たないのではないかと思います(試したことがないので、推測です)。

実際には、タンクに入れた液体窒素(マイナス196℃)の中に保存します。マイナス196℃で保存すると、理論上半永久的に保存が可能です。しかし、理論上大丈夫なこと=医療における安全ではありませんので、これを実際に証明する研究がおこなわれることになります。

前置きが長くなりましたが、12年以上凍結保存された胚の臨床成績を報告した論文を紹介します。今月発表されたばかりです。

Yuan, Y., et al. (2019). “What was the fate of human embryos following long-term cryopreservation (>/=12 years) and frozen embryo transfer?” Hum Reprod 34(1): 52-55. 

中国にて2016年3月~2017年4月に行われた後方視的研究です。
過去に体外受精または顕微授精による出産歴がある20人の患者さんと128個の凍結胚が対象です。凍結保存期間は12.0~17.1年、平均13.9年、凍結時の女性の年齢は、平均28.7歳(25-38)、凍結方法は、slow freezing法です。(ちなみに、slow freezing法は、昔の凍結技術です。現在は、vitrification法という新しい凍結技術が主流です。)115個の胚が融解され、融解の成功率は74%でした。60個の胚が、追加培養に供され20個(33%)が胞胚に到達しました。21個は分割期、13個は胞胚期に胚移植が行われました。その結果、化学的流産1症例、初期流産1症例、異所性妊娠2症例、単胎妊娠3症例、双胎妊娠1例でした。臨床妊娠率は、3日目胚移植25%、5日目胚移植36%でした。生児獲得率は、3日目胚移植17%、5日目胚移植27%でした。

少し成績が悪い気がしますが、その原因がslow freezing法で凍結した胚だからなのか、長期凍結保存による劣化によるものなのかは、判断が難しいと思います。いずれにせよ、12年以上凍結保存しても、一定の臨床成績は期待できそうです。

少しずつこのような論文が発表されるようになってきましたが、凍結胚の長期保存の安全性は、まだ十分に証明されていません。ただし、5年以内の保存期間であれば、一般にひろく行われている通常診療の範囲内であり、安全性は十分に確立されていると考えていいと思います。当院でも、凍結保存期間は最長5年とし、凍結から5年以内に胚移植をするつもりで、治療の計画を立てるように勧めています。

 

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