幸町IVFクリニック

院長

ていねいな顕微授精

2019.01.24

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

今回は、顕微授精の話題です。

顕微授精は、卵子が第2減数分裂中期(MetaphaseⅡ)の時期に行われます。いきなり小難しい医学用語が出てきましたが、要するに採卵で取れてきた卵子がすべて顕微授精の対象となるわけではなく、十分に成熟し、適した時期に到達した卵子でないと顕微授精の対象にならないということです。

卵子が第2減数分裂中期(MetaphaseⅡ)かどうかを判断するには、通常第1極体が放出されているかどうかを指標とします。しかし、この指標だけで判断すると、第1極体が放出された直後など、第1極体が放出されているにも関わらず成熟度が十分でないことがあります。卵子の成熟度が十分でない時期に顕微授精を行うと、当然受精率が悪くなってきます。

卵子の成熟度を正確に評価できる、もう少し精度の高い指標がないかということで、最近卵子の紡錘体が見えるか見えないかを、もう一つの指標として加えてみるという試みが行われています。

紡錘体について少し解説を追加しておきます。紡錘体とは、細胞分裂の際に染色体を娘細胞に分配する細胞内の構造物です。通常の顕微鏡では見えませんが、紡錘体を可視化する特殊な装置を使うと見ることができます。

2つの指標(第1極体の放出プラス紡錘体が見えること)を用いて卵子の成熟度を評価し、顕微授精を行った成績を報告した論文を紹介します。今月発表されたばかりの最新の論文です。

Holubcova, Z., et al. (2019). “Egg maturity assessment prior to ICSI prevents premature fertilization of late-maturing oocytes.” J Assist Reprod Genet.

234人の患者さんから得られた916個の卵子が研究対象です。
第1極体が放出されているにも関わらず、紡錘体が見えなかった卵子は32.64%でした。第1極体の放出が遅れた卵子の38.86%、採卵時に成熟していた卵子の89.84%に紡錘体が確認できました。紡錘体が見えないために顕微授精が延期された卵子のうち52.39%が追加培養にて紡錘体が確認できました。紡錘体が確認できた卵子は有意に発生能が高く、紡錘体の確認は胞胚期到達を予測する指標として優れていました。加えて、紡錘体が確認できた卵子は、着床率、妊娠満期まで到達する率が高いことがわかりました。それから、通常では廃棄されてしまう、成熟が遅い卵子に対して、適切な時期に顕微授精を行うことにより、11人の児が出生に至ったことが報告されました。

結論として、紡錘体の確認は、卵子成熟の判定に有用であること、未熟な卵子でも、この方法を用いて適切な時期に顕微授精を行うことにより、生児獲得に繋がる可能性があることを報告しています。

当院でも、10年ほど前から紡錘体を可視化する装置を使って顕微授精のタイミングを決めています。よって、内容的にはあまり目新しい話ではないのですが、きちんとデータを提示して、その有用性を証明したという意味で、価値のある論文だと思います。

一定の時間帯に顕微授精をやってしまえば、培養室の仕事の効率は上がりますが、成熟が遅延している卵子を救うことはできません。それから、ただ上手に顕微授精ができるだけではダメで、いつ顕微授精をやればいいかを見極める力も含めて、培養室の技術力になってきます。手間は掛かりますが、ていねいな顕微授精を積み重ねることにより、1個でも多くの正常受精胚を作る努力が重要だと考えています。

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