凍結胚移植vs.新鮮胚移植
幸町IVFクリニック院長 雀部です。
今回は、凍結胚移植と新鮮胚移植、どちらの方が妊娠しやすいかという話題です。
基礎知識として、凍結胚移植と新鮮胚移植それぞれのメリット、デメリットをおさらいしておきましょう。
①凍結胚移植は、卵巣過剰刺激症候群(OHSS)発症のリスクを回避できる。これは、凍結胚移植の最大のメリットです。
②新鮮胚移植は、同じ周期に卵巣刺激ー採卵を行うため、着床の時期にエストロゲン高値が持続したり、クロミッドを使用した場合に内膜が薄くなるなど、卵巣刺激が着床に関して不利な方向に影響することがある。
③凍結胚移植の方が、異所性妊娠の発症が少ない。
④新鮮胚移植は、胚移植ー妊娠判定まで1周期で終わりますが、凍結胚移植は、最低でも2周期必要になります。その分、時間、通院回数、費用などが、余分に掛かります。
⑤ホルモン補充周期で凍結融解胚移植を行った場合の話ですが、胚と内膜のタイミングを簡単に合わせることができます。また、ERA検査などで、着床ウィンドウがずれていることがわかった場合、簡単に補正できます。
細かいものは他にもありますが、主にこの5つを押さえておけば十分だと思います。
前置きが長くなりましたが、凍結胚移植と新鮮胚移植、どちらが生児獲得率が高いかを検討した論文を紹介します。今月発表されたばかりの最新の論文です。
「卵巣刺激に対して高反応する患者さんは、新鮮胚移植と比較して、凍結胚移植の方が生児獲得率が高い」
8つのランダム化比較試験、総患者数5265人のデータを、メタアナリシスという方法で解析した論文です。8つのランダム化比較試験のうち、4つは卵巣刺激に高反応する患者さん、残りの4つは正常反応する患者さんを対象としています。
新鮮胚移植と全胚凍結後に行われた最初の融解胚移植の成績を、生児獲得率で比較しています。
卵巣刺激に高反応する患者さんは、新鮮胚移植と比較して、凍結胚移植の方が、生児獲得率が高いことがわかりました(RR:1.18、95%CI: 1.06-1.31)。
卵巣刺激に正常反応する患者さんは、新鮮胚移植と凍結胚移植の生児獲得率に有意差はありせんでした(RR: 1.13、95%CI: 0.90-1.41)。
卵巣過剰刺激症候群は、両群とも凍結胚移植の方が有意に低い発症率でした。
卵巣刺激の方法、卵子を最終成熟させる方法、凍結方法など、背景条件が補正されていないため、エビデンスレベルはあまり高くありませんが、卵巣刺激に高反応する患者さんに関しては、凍結胚移植に軍配が上がるようです。
当院では、卵巣過剰刺激症候群のリスクが低く、内膜厚が十分な患者さんには、新鮮胚移植を行います。新鮮胚移植で良好胚を戻しているにも関わらず、妊娠に至らない患者さんは、次からは凍結胚移植を検討します。
良好胚を凍結胚移植しても妊娠しない患者さんは、内膜側に何か原因がないかどうかを調べます。必要に応じて、子宮鏡、子宮内膜組織診、Trio検査などを行っていきます。
患者さんの状況を診ながら、新鮮胚移植と凍結胚移植を使い分けていくことが重要です。