幸町IVFクリニック

院長

体外受精 vs. 顕微授精

2019.02.21

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

今回の話題は、授精方法の選択についてです。

体外受精の授精方法には、媒精と顕微授精があります。媒精とは、同じ培養液中に卵子と精子を置いて自然の受精を期待する方法です。顕微授精は、主に男性不妊のご夫婦に行う方法で、卵細胞質内精子注入法(ICSI)を行うのが一般的です。

媒精、顕微授精両方とも(広い意味の)体外受精なのですが、媒精のことを、顕微授精と対比させて、(狭い意味の)体外受精と呼ぶことがあります。正確には「媒精 vs. 顕微授精」なのですが、「体外受精 vs. 顕微授精」の方が患者さんにはわかりやすいかと思います。

この体外受精と顕微授精ですが、選択を間違えると受精卵ゼロ→キャンセルという悲惨なことになります。事前に精液検査を行いある程度の見当はつけておくのですが、実際には判断に迷う症例が多く存在します。

判断に迷う症例対策としては、①最初から顕微授精をやる、②スプリット(採卵した卵子を2群に分けて、それぞれ体外受精と顕微授精に割り当てる)、③レスキューICSI(最初体外受精を行い、受精しなかった卵子についてのみ顕微授精を行う)の3つがああります。

今回は、②スプリットを行った症例を後方視的に検討し、授精方法の違い(体外受精または顕微授精)が、胞胚期到達率や生児獲得率など成績に影響を及ぼすかどうかを検討した研究を紹介します。今年1月に発表されたばかりの論文です。

Speyer, B., et al. (2019). “In assisted reproduction by IVF or ICSI, the rate at which embryos develop to the blastocyst stage is influenced by the fertilization method used: a split IVF/ICSI study.” J Assist Reprod Genet.

スプリットを行った症例のうち、体外受精と顕微授精両方で受精卵が得られている症例136例を対象としています。両群の受精後の発育と成績を後方視的に検討しています。

その結果、体外受精由来胚の方が、顕微授精由来胚と比較して、有意に早く胞胚期に到達しました。体外受精由来胚の胞胚到達率、生児獲得率は、顕微授精由来胚と比較して、それぞれ有意差はありませんでした。

タイミング指導→人工授精→体外受精とステップアップしてきて、体外受精で受精はするけれども、妊娠が成立しなかった場合、次は顕微授精にステップアップするものだと考えている患者さんがたまにいらっしゃいます。それは、勘違いです。この論文が示すように、体外受精で受精する患者さんが、顕微授精をやっても生児獲得率は上がりません。

当院では、③レスキューICSIをやっています。この方法は、受精判定の難易度が高く、全般的に手間がかかるため、敬遠するクリニックが多いのですが、非常にいい方法です。この方法が軌道に乗っていると、受精しないと怖いからという理由だけで、顕微授精を選択する必要がなくなります。そして、本当に顕微授精が必要な卵子に対してのみ顕微授精を行う効率の良い方法です。

①最初から顕微授精をやるクリニックもあります。受精しないと怖いから迷ったら顕微授精というクリニックから、信念を持って最初から顕微授精と言っているクリニックまであります。個人的には、現時点では(将来的にはわかりませんが)体外受精と比較して、顕微授精の方が優れているという明らかなエビデンスはないと思います。体外受精で受精するご夫婦に対して、あえて顕微授精を行うというのは、過剰医療を強いている気がします。顕微授精の費用も、患者さんには大きな負担になると思います。

クリニックによって考え方に差がありますが、重要な部分なので、クリニックの考え方をよく聞いて、十分に納得した上で治療を受けることが重要だと思います。

 

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