幸町IVFクリニック

院長

適応の無い顕微授精は過剰医療!

2019.09.12

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

今回は、顕微授精の話題です。

適応の無い顕微授精が、患者さんにとって利益があるのかどうかを検証した研究を紹介します。今年8月に発表されたばかりの論文です。

Drakopoulos, P., et al. (2019). “ICSI does not offer any benefit over conventional IVF across different ovarian response categories in non-male factor infertility: a European multicenter analysis.” J Assist Reprod Genet.

男性因子が無い(精液所見が正常)のカップルに対して行う顕微授精は、通常の体外受精と比較して、アドバンテージがあるかどうかを検討しました。

多施設共同(ベルギー1施設、スペイン14施設)で行われた後ろ向き研究です。

体外受精または顕微授精目的で、アンタゴニスト法による卵巣刺激を行った11469人の初回治療周期を研究の対象としました。11469人のうち、男性因子が無いなど、この研究の目的に適合したのは4891人(顕微授精4227人、体外受精664人)でした。

4891人の対象者を4つのグループに分けました。
グループA:卵巣刺激に対して低反応(回収卵子1-3)
グループB:卵巣刺激に対してやや低反応(回収卵子4-9)
グループC:卵巣刺激に対して正常反応(回収卵子10-15)
グループD:卵巣刺激に対して高反応(回収卵子15以上)

グループごとの受精率、胚の利用率は、体外受精と顕微授精の間に有意な差はありませんでした。

グループごとの新鮮胚移植による生児獲得率、凍結胚移植も含めた累積生児獲得率は、体外受精と顕微授精の間に有意な差はありませんでした。

結論は、「卵巣の反応性に関係なく、男性因子の無いカップルに対する顕微授精は、(体外受精と比較して)アドバンテージは無い」でした。

顕微授精は本来男性因子のカップルに対して行うものなのに、この研究のデータにもある様に、男性因子の無い4891人のうち4227人に対して顕微授精が行われており、体外受精はたったの664人だけです。日本でも同じような傾向があり、やたらと顕微授精を行う施設があります。中には、「当院は顕微授精しかやりません」と最初から謳っている施設もあります。

そこまで顕微授精をやるからには、顕微授精をやることによる患者さんに対する利益が十分に証明されている必要があると思います。しかし、現実にはエビデンスは不十分な状態ではないかと思います。

この論文のように、「顕微授精やり過ぎ問題」に対して警鐘を鳴らす論文が少しずつ発表されていますので、今後も注視していきたいと思います。

 

監修医師紹介

院長 雀部 豊

幸町IVFクリニック 院長 雀部 豊

医学博士、産婦人科専門医、生殖医療専門医、臨床遺伝専門医
1989年東邦大学医学部卒業、1993年同大学院修了。
大学院時代は、生殖医学専門の教授に師事し、胚の着床前診断(現在の着床前遺伝学的検査PGT)の研究を行う。以降、生殖医学を専門に診療・研究を従事。2011年、東京都府中市に幸町IVFクリニックを開設、同クリニック院長。一般不妊治療から生殖補助医療、着床前遺伝学的検査(PGT-A/SR)まで幅広く診療を行っている。

※本記事の医師監修に関して、学術部分のみの監修となり、医師が具体的な施術や商品等を推奨しているものではございません。

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