幸町IVFクリニック

院長

体外受精で卵巣癌が増える?

2019.10.17

幸町IVFクリニック院長 雀部です。

今回は、不妊治療と卵巣癌の関係についてです。

不妊治療と卵巣癌、一見なんの関係もなさそうですが、実は不妊治療(特に体外受精など生殖補助医療)を受けている女性に卵巣癌が多いのではないかと以前より言われているのです。

不妊治療中の卵巣は、常に炎症に曝されています。卵胞発育~排卵には必ず炎症が伴います。卵巣刺激でたくさん卵胞を育てていると炎症を起こしている箇所が広範囲になります。また、採卵の際に針を卵巣に刺すと、その穿刺部位に炎症が起きます。このように繰り返し同じ臓器に炎症が起きていると癌が発生しやすくなるという理屈です。

それでは、実際のところはどうなのでしょうか?大規模データベースを解析した研究を紹介します。今月発表されたばかりの論文です。
Vassard, D., et al. (2019). “Assisted reproductive technology treatment and risk of ovarian cancer-a nationwide population-based cohort study.” Hum Reprod.

デンマークにて1994~2015年に行われた体外受精症例を解析しました。

ARTを受けている58,472例と治療していない625,330例を比較しました。

その結果、体外受精を受けている集団では、卵巣癌の罹患率が高いことがわかりました。詳しく解析すると、女性側に不妊原因がある女性は、卵巣癌の罹患率が高いのですが、女性側に不妊原因がない女性は、低いことがわかりました。さらに解析すると、女性側に不妊原因がある女性の内、子宮内膜症の女性は卵巣癌の罹患率が高いのですが、多囊胞性卵巣症候群、他の女性因子、原因不明の女性は、低いことがわかりました。

結論は、「体外受精によって卵巣癌のリスクは増えない。ただし、子宮内膜症を伴った女性は例外である。」でした。

論文を読んでいて一瞬ヒヤッとしましたが、子宮内膜症を伴っていない女性は、体外受精によって卵巣癌のリスクは増大しないようです。

子宮内膜症を伴った女性は、要注意です。特に、卵巣に子宮内膜症性囊胞がある方は、体外受精以前に、子宮内膜症性囊胞の存在自体が卵巣癌のリスク因子です。定期的に超音波検査を受けるなど、厳重な管理が必要です。

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