幸町IVFクリニック

培養室

胚凍結のしくみ

2024.09.01

こんにちは!培養室の田幡です!

みなさんまだ暑い日が続いていますが、夏バテしていませんか?

 

少しだけでも涼しい気分になっていただけたらいいな~

なんて思って、今回は胚凍結のお話にしてみました!笑

 

 

みなさんは、ご夫婦の受精卵がどのように保管されているかご存知ですか?

 

胚“凍結”というくらいですから冷たいところだとは想像できますが、

冷凍庫のようなイメージでしょうか?

 

 

ご家庭の冷凍庫は-18℃程度ですが、実はこれよりもずっとずっと温度の低い

液体窒素という液体の中で保存されています。

 

液体窒素とは、名前の通り液体状態の窒素のことで、-196℃と超低温です。

ドライアイスでも-79℃なのでかなり低温なのが分かりますね。

 

では、なぜわざわざそこまでの低温下で保存しているのか。

胚凍結のしくみとその方法について紹介していきたいと思います!

 

 

 

冷凍したお肉や野菜を解凍すると、ドッリプが出てくるのをよく目にしませんか??

 

実は、この現象と同じようなことが胚でも起こります。

お肉や野菜の細胞内にも、胚の細胞内にも水分が存在します。

この水分が凍ると氷結晶ができ、この結晶が細胞を物理的に破壊してしまうのです。

ドッリプは、解凍した時に細胞内に維持できなくなった水分が流れ出てきたものですね。

 

他にも、塩類のイオン濃度による傷害なども起こります。

そのため、冷凍庫のような場所に胚をそのまま入れて保管しておくことはできません。

だからといって、液体窒素なら直接入れても破壊されないというわけでもありません。

 

大事なのは胚内部に結晶を作らないことであり、その方法を“超急速ガラス化保存法”といいます。

 

凍結方法にも何種類かありますが、現在最も用いられている方法でしょう。

簡便な凍結方法で、解凍後の生存率も高いといわれています。

 

 

まず、“ガラス化”とは??

 

ガラスは触れると硬く、見かけは固体ですが、分子の並びが不規則であるため固体ではなく液体と定義されます。

水などの液体は流動性がありますが、それがなく「分子がランダムなまま凍結した液体」をガラス状態とよびます。

 

液体を冷却すると、結晶を作って固まる状態(固体)と結晶を作らず固まる状態(ガラス)があります。

ゆっくり温度を下げていくと、液体は結晶を作りながら徐々に固体になりますが、

超急速に温度を下げると、一様にガラス状態になります。

 

このようにガラス状に凍らせるために、超低温の液体窒素を使います!

 

 

しかし、先程「液体窒素なら直接入れても破壊されないというわけでもない」

と言いましたね。

適当な培養液であってもそのまま液体窒素に入れると、胚は死んでしまいます。

 

そこで!!

ポイントになるのがガラス化溶液です!

 

この溶液には、凍結保護剤というものが含まれていて胚内で結晶が作られることを防ぎます。

 

そしてなんと、この凍結保護物質を胚内の水分と入れ替えるんです!

 

凍結に至るまでは、何段階かある溶液に順番に胚を浸していきます。

この段階の中で、胚内の水は胚外へと出ていき、溶液中の凍結保護物質は胚内に浸透します。

そして最後は、とても細いストローに胚を1個ずつ封入してすぐに液体窒素に入れます。

 

 

これで胚は凍結され、長期間保存できるようになります。

ただし、急激でなくとも保存中は少しずつ劣化が進むので可能な限り早めに移植した方がいいかもしれません。

状況は各患者さんによって変わってくるので、心配な方は相談してみるいいと思います。

 

簡単な説明にはなってしまいましたが、胚がどんな風に凍結されるのか

少しでも想像できていたらいいなと思います。

 

ご自身の受精卵を直接見ることはできない分、

ブログなどから培養室の様子が伝われば嬉しいですね!

 

 

今後もみなさんの気になる話題を探してお話ししていきたいと思います!

ではまた次回(^^)/~~~

 

 

監修医師紹介

院長 雀部 豊

幸町IVFクリニック 院長 雀部 豊

医学博士、産婦人科専門医、生殖医療専門医、臨床遺伝専門医
1989年東邦大学医学部卒業、1993年同大学院修了。
大学院時代は、生殖医学専門の教授に師事し、胚の着床前診断(現在の着床前遺伝学的検査PGT)の研究を行う。以降、生殖医学を専門に診療・研究を従事。2011年、東京都府中市に幸町IVFクリニックを開設、同クリニック院長。一般不妊治療から生殖補助医療、着床前遺伝学的検査(PGT-A/SR)まで幅広く診療を行っている。

※本記事の医師監修に関して、学術部分のみの監修となり、医師が具体的な施術や商品等を推奨しているものではございません。

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