体外受精・顕微授精で父にー前立腺癌に注意
幸町IVFクリニック院長 雀部です。
今回は、男性不妊と前立腺癌の話です。
以前、不妊治療と卵巣癌の関係について書きました。女性側のリスクばかりでは不公平なので、今回は男性側のリスクについて書きます。
体外受精・顕微授精で父になった男性の前立腺癌のリスクを検証した研究を紹介します。今年の9月に発表されたばかりの論文です。
Al-Jebari, Y., et al. (2019). “Risk of prostate cancer for men fathering through assisted reproduction: nationwide population based register study.” BMJ 366: l5214.
大規模データベースを解析したコホート研究です。
スウェーデンにて、1994年1月から2014年12月までに生まれた子供の父1,181,490人を対象としました。20,618人は体外受精、14,882人は顕微授精、1,145,990人は自然妊娠で生児を授かりました。
前立腺癌を発症したのは、体外受精77人(0.37%)、顕微授精63人(0.42%)、自然妊娠3244人(0.28%)でした。発症平均年齢は、体外受精55.9歳、顕微授精55.1歳、自然妊娠57.1歳でした。
統計学的に解析すると、体外受精・顕微授精で父になった男性は、前立腺癌の発症リスクが高く、発症平均年齢が低いことがわかりました。
前立腺癌のリスクを、自然妊娠で父になった男性と比較すると、顕微授精で父になった男性は60%、体外受精で父になった男性は30%高いことがわかりました。
結論として、「生殖補助医療、特に顕微授精、で父になった男性は、低年齢発症の前立腺癌のリスクが増える」でした。
体外受精・顕微授精で父になった男性に前立腺癌のリスクが増える理由はよくわかっていませんが、精子所見が悪い状態と前立腺癌のリスクが関係しているみたいです。
前立腺癌は、PSAという腫瘍マーカーでスクリーニング可能です。体外受精・顕微授精で父になった男性のうち、精液所見が悪いといわれた方は、定期的なPSA検査がお勧めです。
監修医師紹介

幸町IVFクリニック 院長 雀部 豊
医学博士、産婦人科専門医、生殖医療専門医、臨床遺伝専門医
1989年東邦大学医学部卒業、1993年同大学院修了。
大学院時代は、生殖医学専門の教授に師事し、胚の着床前診断(現在の着床前遺伝学的検査PGT)の研究を行う。以降、生殖医学を専門に診療・研究を従事。2011年、東京都府中市に幸町IVFクリニックを開設、同クリニック院長。一般不妊治療から生殖補助医療、着床前遺伝学的検査(PGT-A/SR)まで幅広く診療を行っている。
※本記事の医師監修に関して、学術部分のみの監修となり、医師が具体的な施術や商品等を推奨しているものではございません。